家族信託のデメリットと危険性|契約前に確認したい5つのこと

「家族信託は危険」「家族信託で後悔した」。家族信託を調べていると、こうした言葉を目にすることがあります。家族信託は、親の財産の管理を子などの家族に任せておく仕組みです。役に立つ場面がある一方で、受託者になる家族には何年も続く管理の負担がかかり、費用や税金、家族の間の意見の違いで困ることもあります。

ただし、こうしたデメリットの多くは、契約の前に確かめておくことで備えられます。この記事では、家族信託の主なデメリットを5つに分け、それぞれ契約前に何を確認すればよいかと、家族信託以外の方法が合う場合をまとめます。

家族信託の主なデメリットと、契約前に確認すること

家族信託の主なデメリットは、受託者の負担、家族の間の意見の違い、財産と金融機関の制約、費用と税金、契約書の内容の5つです。それぞれについて契約前に確認することを、表の右側にまとめました。

デメリット契約前に確認すること
① 受託者に長い期間の負担がかかる受託者を引き受けられる家族がいるか。その人が務められなくなったときの後任を誰にするか
② 家族の間で対立しやすいご本人の希望と受託者に任せる権限を、ほかの家族にどう伝えるか
③ 財産と金融機関の取扱いに制約がある信託したい財産を信託できるか。信託口口座を開ける金融機関があるか
④ 費用と税金がかかる始めるときと、変更・終了のときの費用。信託した財産の税金の扱い
⑤ 契約書が目的に合わないと動けない将来の売却や借入れについての権限と、信託が終わった後の財産の行き先を、契約ではっきりさせているか

家族信託の仕組みから確認したい方は、「家族信託とは?仕組みとできること・できないこと」を先にご覧ください。

デメリット① 受託者に長い期間の管理と記録の負担がかかる

家族信託でいちばん負担が大きいのは、財産を預かる受託者です。受託者は、信託が終わるまで、信託した財産を自分の財産と分けて管理し、お金の出入りを記録して報告します。親が元気なうちに始め、親が亡くなるまで続く設計にすると、いつまで続くかは始める時点では分かりません。

受託者が負う主な義務

受託者の義務は信託法に定められていて、家族が引き受けたからといって軽くなるものではありません。

注意して管理する義務

信託の目的に沿い、他人の財産を預かる者として求められる注意を払って管理する(信託法第29条)

受益者のために行動する義務

受益者の利益のために管理する。信託した財産を、受託者自身の利益のために使うことはできない(信託法第30条)

分けて管理する義務

信託した財産を、受託者自身の財産と分けて管理する(信託法第34条)

帳簿をつけて報告する義務

帳簿をつけ、毎年1回、財産の状況をまとめた書類を作って、原則として受益者に報告する(信託法第37条)

損失を埋め合わせる責任

務めを怠って信託した財産に損失を出した場合、受益者から損失の埋め合わせを求められることがある(信託法第40条)

たとえば、信託口口座のお金を受託者自身の生活費に回したり、記録をつけずにお金を出し入れしたりすると、これらの義務に反します。日ごろからつけている記録は、ほかの家族から使い込みを疑われたときに、受託者自身を守る材料にもなります。

受託者を引き受けられる人がいないときは?

受託者を引き受けられる家族がいなければ、家族信託は始められません。未成年の子は受託者になれません。信託法第7条 遠方に住んでいる、仕事や子育てで手が回らないといった事情で、引き受けを迷う家族もいます。

受託者の候補がいても、その人が先に亡くなったり、病気で務められなくなったりすることがあります。契約の段階で次に受託者を務める人を決めておけば、管理が途切れにくくなります。受託者の仕事を見守る信託監督人を置き、受託者の負担や不正の心配を減らす方法もあります。信託監督人を専門家に頼む場合は、その報酬が続けてかかります。

それでも受託者を引き受けられる家族がいないときは、家族信託にこだわらず、任意後見などのほかの制度で備えることを考えます。

デメリット② 家族の間で目的や権限を共有しないと対立しやすい

家族信託では、親の財産の名義が受託者になった子に移り、その子が管理や売却を任されます。ほかの兄弟姉妹が事情を知らないままだと、「親の財産を一人で自由にしている」と受け止められ、対立のきっかけになることがあります。

実際には、受託者は契約で決めた目的と権限の範囲でしか財産を扱えず、記録と報告の義務も負っています。こうした点がほかの家族に伝わっているかどうかで、受託者の管理への受け止め方は違ってきます。

家族全員の同意は必要?

法律上、家族全員の同意は必要ありません。信託契約は、財産を託すご本人(委託者)と受託者の2人で結ぶ契約です。

それでも、ご本人がなぜ家族信託を選び、誰に何を任せるのかを、ほかの家族に伝えておく意味はあります。後になって受託者の管理に疑いを持たれたときや、ご本人が亡くなった後の財産の分け方に不満が出たときに、それがご本人の意思だったと分かっていれば、受託者が一人で説明を背負わずに済みます。

反対に、ご家族の都合を優先して、ご本人の希望と違う内容にすることはできません。契約の内容を決めるのは、あくまでご本人です。

遺留分の問題は残る

家族信託で、ご本人が亡くなった後に信託した財産を受け取る人を決めておいても、ほかの相続人の遺留分(一定の相続人に保障された最低限の取り分)の問題がなくなるわけではありません。たとえば、自宅と預貯金のほとんどを信託し、ご本人が亡くなった後はすべて長男に引き継ぐと定めた場合、ほかの子から遺留分に相当するお金を請求される可能性があります。民法第1046条

家族信託と遺留分の関係は、信託の内容によって考え方が分かれる点もあり、一律の結論は出せません。財産の引継ぎ先を決める信託を考えるときは、遺言とあわせて、ほかの相続人の取り分をどうするかも検討しておきます。

デメリット③ 信託できる財産と金融機関の取扱いに制約がある

家族信託では、どの財産でも同じように信託できるわけではありません。財産の種類によって、信託の方法が限られたり、信託すること自体が難しかったりします。

預貯金は口座のままでは信託できない

預貯金は、今の口座のまま受託者の名義に変えることはできません。銀行の規定で、預金の権利を口座の名義人以外に移すことが禁じられているためです。実際には、ご本人がいったん払い戻したお金を信託し、受託者が開いた信託口口座(信託のお金を受託者個人のお金と分けて管理するための口座)に移します。

信託口口座を取り扱っていない金融機関もあり、取り扱っている金融機関でも開設には審査があります。契約の内容を固める前に、利用したい金融機関で開設できるかを確かめておかないと、契約は結んだのにお金の受け皿がない、ということになりかねません。株式や投資信託も、証券会社によっては信託に対応していないため、対象にするなら同じように事前に確認します。

農地や年金を受け取る権利は信託しにくい

田や畑などの農地は、農地のままでは受託者に移すことが難しい財産です。農地の権利を移すには原則として農業委員会の許可が必要ですが、信託を引き受けることによって権利を取得する場合には、この許可をすることができないと定められています。農地法第3条第2項第3号 農地以外への転用の手続きを経たうえで信託する方法などもありますが、取れる方法は農地の場所や状況によって変わります。

年金を受け取る権利は、ご本人だけが持つ権利のため、信託することができません。年金はご本人名義の口座に振り込まれ続けるので、その口座の管理は家族信託とは別に考えておく必要があります。

デメリット④ 費用と税金は契約前と契約後の両方で確認する

家族信託には、始めるときの費用に加えて、続けている間や終わるときにも費用や税金の手続きがかかります。見積りを見るときは、始めるときの金額と、その後にかかるものを分けて確認します。

費用は始めるときだけでなく、変更や終了のときにもかかる

始めるときには、専門家への報酬のほか、公正証書で契約する場合の公証人の手数料や、不動産を信託する場合の登録免許税などの実費がかかります。始めた後も、契約の内容を変えるとき、受託者が交代するとき、信託を終えて財産を引き継ぐときに、登記や専門家への依頼の費用がかかることがあります。信託監督人を専門家に頼めば、その報酬も続けてかかります。

当事務所の報酬と、報酬のほかにかかる費用は「家族信託の相談ページ」に掲載しています。

家族信託をしても税金は安くならない

家族信託は財産を管理するための仕組みで、それ自体に税金を安くする効果はありません。ご本人が委託者と受益者を兼ねる形なら、税金の上では、信託した財産は引き続きご本人のものとして扱われます。所得税法第13条

ご本人が亡くなった後に次の受益者が利益を受け継ぐと、その人が財産を相続したものとみなされ、相続税の対象になります。また、ご本人以外の人を受益者にすると、その人が財産をもらったものとして贈与税の対象になることがあります。相続税法第9条の2

信託した不動産の赤字はほかの所得と相殺できない

信託した賃貸不動産で赤字が出ても、その赤字を、ご本人のほかの不動産の黒字などと相殺することはできません。税金の計算上、信託から生じた不動産所得の赤字は「生じなかったもの」とみなされるためです。租税特別措置法第41条の4の2

たとえば、賃貸アパートを2棟持っていて1棟だけを信託した場合、信託した1棟の赤字を、信託していないもう1棟の黒字から差し引くことはできません。大規模な修繕などで赤字が見込まれる物件を信託するときは、事前に税理士に確認しておきます。

受託者は税務署に書類を出す必要がある

受託者は、その年分の「信託の計算書」を、翌年1月31日までに税務署に提出する必要があります。所得税法第227条 ただし、信託した財産から生じた収益が1年で3万円以下であれば、提出は要りません。所得税法施行規則第96条賃貸物件を信託していて家賃収入が年3万円を超えれば、毎年の提出が必要になります。

デメリット⑤ 契約書が目的に合っていないと、必要なときに動けない

受託者が売却や借入れをできるかどうかは、信託の目的と、契約で定めた権限や制限から判断します。信託法第26条 目的があいまいだったり、権限を狭く定めていたりすると、親の判断能力が低下した後に、希望していた売却や借入れを進められないことがあります。そのころにはご本人が契約を直すことも難しくなっているため、契約の段階で将来の場面まで想定しておく必要があります。

ひな形を使った契約で起きやすいこと

インターネットで公開されている契約書のひな形をそのまま使うと、その家族の財産や希望に合わない内容になりがちです。たとえば、次のような点が問題になります。

  • 売却や建替えのための借入れについて、契約で権限を制限していたり、金融機関などが求める条項がなかったりして、希望する売却や融資を進められない
  • 信託の目的があいまいで、受託者がどこまでお金を使ってよいか判断できない
  • 受託者が亡くなったときの後任や、信託が終わった後に財産を受け取る人が決まっていない
  • 金融機関が求める内容を満たしておらず、信託口口座を開けない

信託の目的は、受託者が判断に迷ったときのよりどころになります。「父の生活と療養のため」「自宅を売却して施設の費用に充てるため」のように、何のための信託かを具体的に書いておくことで、受託者がお金を使ってよいかどうかを判断しやすくなります。

公正証書で作らないといけない?

法律上、信託契約を公正証書で作る必要はありません。ただし、信託口口座を開く金融機関から、公正証書で作った契約書を求められることがあります。また、公証人がご本人の意思を確認して作るため、契約の内容と意思確認の経過を公的な書面に残せます。ただし、公正証書にしたからといって、判断能力や契約の内容をめぐる争いがなくなるわけではありません。当事務所では、こうした点を踏まえて信託契約を公正証書で作成しています。

契約書の作成から信託登記、信託口口座の開設までの流れや必要な書類は、「家族信託の手続きと流れ」で説明しています。

家族信託以外の方法が合う場合もある

ここまでのデメリットを確かめた結果、家族信託よりほかの方法のほうが目的に合うこともあります。制度に優劣があるわけではなく、何をしたいかで選び、必要なら組み合わせます。

  • 亡くなった後の財産の行き先を決めておきたいだけなら、遺言で足ります。受託者のような管理の負担もかかりません
  • 介護や施設との契約など、生活面の手続きを任せたいなら、任意後見が合います。家族信託では、こうした手続きを任せることはできません
  • 受託者を引き受けられる家族がいない場合は、任意後見で備える方法があります。任意後見では、専門家を任意後見人に選ぶこともできます

反対に、判断能力が低下した後も、自宅の売却や賃貸物件の管理を家族の判断で進められるようにしておきたい場合は、家族信託が役に立ちます。その場合も、遺言や任意後見と組み合わせて、家族信託でカバーできない部分を補います。

それぞれの違いは「家族信託と遺言の違い」「家族信託と成年後見の違い」で詳しく説明しています。

家族信託のデメリットについてよくある質問

Q
受託者になってくれる家族がいない場合はどうすればよいですか?
A

受託者を引き受けられる家族がいなければ、家族信託は始められません。目的によっては、任意後見で専門家を任意後見人に選ぶ、遺言で亡くなった後の財産の行き先を決めておく、といった方法で備えられます。候補の家族がいる場合も、その人が務められなくなったときの後任を契約で決めておきます。

Q
家族信託をするには家族全員の同意が必要ですか?
A

法律上は必要ありません。信託契約は、財産を託すご本人と受託者の2人で結ぶ契約です。ただ、ご本人の意思をほかの家族に伝えておくと、後から受託者の管理に疑いを持たれたときに、受託者が説明しやすくなります。

Q
認知症と診断された後でも家族信託を検討できますか?
A

診断名だけでは決まりません。ご本人が、誰にどの財産を任せ、管理や売却、亡くなった後の引継ぎがどう変わるのかまで理解して自分で決められる状態であれば、診断後でも始められる場合があります。日常の会話ができるだけでは足りず、個別に慎重な確認が必要です。判断能力が失われた状態になった後は、新しく始めることはできません。

Q
家族信託をすると税金が高くなりますか?
A

家族信託をしただけで税金が高くなるわけではありません。ご本人が委託者と受益者を兼ねる形なら、税金の上では、信託した財産は引き続きご本人のものとして扱われます。ただし、信託した不動産の赤字をほかの所得と相殺できないことや、収益の額によっては受託者に信託の計算書の提出が必要になることなど、税金の面で注意する点はあります。

Q
信託契約は公正証書で作らないといけませんか?
A

法律上は必須ではありません。ただし、信託口口座を開く金融機関から公正証書を求められることがあります。公証人がご本人の意思を確認して作るため、契約の内容と意思確認の経過を公的な書面に残せますが、判断能力や契約の内容をめぐる争いがなくなるわけではありません。当事務所では公正証書で作成しています。

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