家族信託と任意後見・成年後見の違い|目的別の選び方と併用

親の物忘れが気になり始め、この先の財産の管理をどうすればよいか調べ始めると、「家族信託」「任意後見」「成年後見」と、いくつもの制度が出てきます。いずれも、ご本人に代わって財産の管理や手続きを担う人を置く仕組みですが、始められる時期、任せられること、誰が監督するかがそれぞれ違います。家族信託は、判断能力が低下したときの備えに限らず、元気なうちから財産の管理を任せたり、財産を引き継ぐ順番を決めておいたりすることにも使えます。自宅を売りたいのか、施設との契約を任せたいのかによっても、合う制度は変わります。

この記事では、3つの制度の違いを比較表で整理したうえで、親の今の状態と目的に合わせた選び方、併用する場面、2026年6月に成立した成年後見制度の見直しで変わることをまとめます。

家族信託・任意後見・法定後見の違いを比較表で確認

任意後見と法定後見は、あわせて「成年後見制度」と呼ばれます。ただし、任意後見はご本人が元気なうちに自分で契約して備える制度、法定後見は判断能力が低下した後に家庭裁判所が支援する人を選ぶ制度で、始め方が違います。この記事では2つを分けて、家族信託と比べます。

家族信託任意後見法定後見
始めるときご本人と受託者が契約したときから元気なうちに公正証書で契約し、判断能力が低下した後に家庭裁判所が任意後見監督人を選んだときから判断能力が低下した後に家庭裁判所に申し立て、後見人などが選ばれたときから
担い手を決める人ご本人(受託者を選ぶ)ご本人(任意後見人を選ぶ)家庭裁判所(候補者を挙げることはできる)
任せられること信託した財産の管理・処分。亡くなった後の引継ぎ先も決められる契約で決めた範囲の財産の管理と、生活や療養に関する手続き財産の管理と、生活や療養に関する手続き(権限の範囲は類型で異なる)
介護・施設の契約任せられない契約で決めておけば任せられる任せられる(類型や与えられた権限による)
監督家庭裁判所の監督はない。必要なら信託監督人を置く家庭裁判所が選んだ任意後見監督人家庭裁判所
主な費用契約・登記の専門家報酬と実費。受託者の報酬は契約で決める公正証書の作成費用、任意後見人の報酬(契約で決める)、任意後見監督人の報酬申立ての費用、後見人などの報酬(家庭裁判所が決める)

法定後見には、ご本人の判断能力の程度に応じて、後見・保佐・補助の3つの類型があります。どの類型かによって、後見人などに与えられる権限の範囲が変わります。なお、2026年6月に成立した民法の改正で、後見と保佐は補助に一本化されることになりました。施行は2028年12月までの政令で定める日で、それまでは今の制度が使われます。改正の内容は、後の「成年後見制度の見直しで変わること」で説明します。

どの制度が合うかは、親の今の状態と目的で決まる

制度を選ぶときは、まず親が今、契約の内容を理解して自分で決められる状態かを確かめ、次に何を任せたいかを考えます。

親が契約の内容を理解して決められるなら

ご本人が元気なうちであれば、家族信託と任意後見のどちらも選択肢になります。どちらも、ご本人が自分で担い手を選び、何を任せるかを決めておける制度です。目的によって、次のように考えます。

  • 自宅や賃貸物件など、特定の財産の管理や売却を家族の判断で進められるようにしたい:家族信託
  • 元気なうちから財産の管理を任せたい、亡くなった後の引継ぎ先まで決めておきたい:家族信託
  • 介護や施設との契約、入院の手続き、預貯金の管理など、判断能力が低下した後の生活全般を任せたい:任意後見

任意後見は、判断能力が低下して任意後見監督人が選ばれるまで始まりません。元気なうちから財産の管理を任せたい場合は、家族信託のほか、財産の管理を頼む委任契約を任意後見の契約とあわせて結んでおく方法もあります。目的が両方にまたがるなら、2つを組み合わせて使えます。

判断能力がすでに低下しているときは?

判断能力が失われた状態になっていれば、家族信託や任意後見を新しく始めることはできず、法定後見を検討します。家族信託も任意後見も、ご本人が内容を理解して結ぶ契約だからです。

ただし、判断能力の有無は、認知症という診断名だけでは決まりません。症状が軽く、誰に何を任せ、それによって何が変わるのかを理解して自分で決められる段階なら、診断後でも契約できる場合があります。日常の会話ができるだけでは足りず、個別に慎重な確認が必要です。親の物忘れが気になり始めた段階で相談すれば、それだけ選べる制度が多く残ります。

自宅の管理や売却を家族に任せたいとき

自宅を売るときの進め方は、3つの制度で違います。特に、家庭裁判所の許可が要るかどうかが分かれ目になります。

家族信託

受託者は、信託の目的と契約で定めた権限の範囲内で、売主として売却を進められます。家庭裁判所の許可は要りません。将来売る予定があるなら、そのことを信託の目的や契約ではっきりさせておくと、買主や金融機関への説明もしやすくなります

法定後見

後見人などが自宅を売ることはできます。ただし、ご本人の住まいを売るには家庭裁判所の許可が必要で、売却がご本人のために必要かどうかが判断されます

任意後見

契約で売却の代理権を与えておけば、任意後見人が売却を進められます。法定後見のような家庭裁判所の許可の定めはありませんが、任意後見監督人の監督のもとで、ご本人のための売却であることが求められます

「成年後見を使うと自宅を売れなくなる」と聞くことがありますが、実際には、法定後見でも家庭裁判所の許可を得れば売却できます。民法第859条の3 施設に入っていて今は住んでいない自宅も、ご本人の住まいとして扱われることがあります。保佐人や補助人が代わりに売る場合も、同じように許可が必要です。許可を得るまでには時間がかかるため、売却の時期が決まっている場合は、その分の余裕を見ておく必要があります。

一方で、家族信託で自宅を信託しても、信託していない預貯金の管理や、施設との契約は別に備える必要があります。家族信託の仕組みやできることは「家族信託とは?仕組みとできること・できないこと」で説明しています。

介護や施設との契約など、生活面の手続きを任せたいとき

介護サービスの契約、施設への入所契約、入院の手続き、年金や預貯金の管理など、ご本人の生活に関わる手続きを任せたいときは、任意後見か法定後見で備えます。家族信託の受託者が扱えるのは信託した財産だけで、ご本人に代わってこうした契約を結ぶ権限はありません。

ご本人が元気なうちなら、任意後見の契約で、誰にどの手続きを任せるかを自分で決めておけます。判断能力が低下した後であれば法定後見を利用し、家庭裁判所が選んだ後見人などが手続きを担います。法定後見では、申立てのときに家族を候補者として挙げることはできますが、誰を選ぶかは家庭裁判所が決めます。

家族信託と後見を併用する場面

家族信託と任意後見・法定後見は、どちらか一方を選ぶものではなく、組み合わせて使えます。家族信託で扱えない部分を、後見で補う形です。たとえば、次のような組み合わせがあります。

  • 自宅は家族信託で長男に管理と売却を任せ、介護や施設との契約、信託していない預貯金の管理は、任意後見で長男に任せておく
  • 賃貸アパートは家族信託で管理を続け、判断能力が低下した後の生活面の手続きは法定後見を利用する

ただし、併用すれば何でも備えられるわけではありません。受託者と後見人が別の人になれば、役割を分けて連携する必要があります。任意後見監督人や後見人の報酬など、続けてかかる費用も増えます。法定後見では家庭裁判所が後見人を選ぶため、受託者と同じ家族が選ばれるとは限りません。どの財産をどの制度で扱うかは、ご本人の希望と財産の内容から決めます。

亡くなった後の財産の行き先を決める方法は、「家族信託と遺言の違い」で説明しています。

成年後見制度の見直し(2026年の民法改正)で変わること

2026年6月17日、成年後見制度を見直す改正民法などが成立し、6月24日に公布されました。成年後見制度の部分は、公布から2年6か月以内に政令で定める日に施行されます。施行日はまだ決まっておらず、それまでは今の制度が使われます。主な変更点は次のとおりです。

後見・保佐が補助に一本化される

ご本人に必要な事項についてだけ、補助人に代理権や取消権を与える仕組みになります。ご本人が判断能力を欠く常況にあると認められる場合は、例外的に、より広い権限を持つ仕組み(特定補助)を選べます

必要がなくなれば利用を終えられる

今の後見・保佐は、判断能力が回復しない限り利用をやめられません。改正後は、利用の必要がなくなったと家庭裁判所が認めれば、利用を終えられます

任意後見監督人を置かない場合がある

明らかに監督人による監督の必要がないと家庭裁判所が認めるときは、監督人を選ばず、家庭裁判所が直接監督できるようになります

補助を始めても任意後見契約が続く

今は法定後見を始めると任意後見契約が終わりますが、改正後は補助を始めても任意後見契約を続けられるようになります

今利用している人や、これから契約する人はどうなる?

すでに後見・保佐を利用している人は、基本的に今の法律の内容のまま利用を続けられます。新しい補助の制度に移る申立てや、利用を終えるための申立てもできます。施行日より前に結んだ任意後見契約には、施行後は改正後の法律が適用されます。ただし、それまでに生じた効力はそのまま維持されます。

改正を待ってから考えたほうがよい?

改正で主に変わるのは、判断能力が低下した後に使う法定後見と、任意後見の監督の仕組みです。改正の対象は成年後見制度と遺言で、家族信託は含まれていません。ご本人が元気なうちにしかできない家族信託や任意後見の契約は、改正を待たずに検討できます。施行までの間にご本人の判断能力が低下すれば、選べる制度は限られます。

改正の内容は、法務省の「民法等の一部を改正する法律(成年後見及び遺言の制度の見直し)について」で公表されています(2026年10月確認)。

家族信託と後見についてよくある質問

Q
認知症と診断された後でも家族信託や任意後見を始められますか?
A

診断名だけでは決まりません。ご本人が、誰に何を任せ、それによって財産の管理や生活の手続きがどう変わるのかまで理解して自分で決められる状態であれば、診断後でも契約できる場合があります。日常の会話ができるだけでは足りず、個別に慎重な確認が必要です。判断能力が失われた状態になった後は、法定後見を検討します。

Q
任意後見は契約したらすぐに始まりますか?
A

すぐには始まりません。任意後見契約は元気なうちに公正証書で結んでおき、判断能力が低下した後に家庭裁判所が任意後見監督人を選んだときから効力が生じます。それまでは、任意後見人になる予定の人が、任意後見人として財産を管理することはできません。

Q
成年後見人は親の自宅を売れますか?
A

売れます。ただし、ご本人の住まいを売るには家庭裁判所の許可が必要で、売却がご本人のために必要かどうかが判断されます。許可を得るまでには時間がかかるため、売却の時期に余裕を見ておく必要があります。

Q
家族信託と任意後見は一緒に使えますか?
A

使えます。自宅などの財産は家族信託で管理と売却を任せ、介護や施設との契約、信託していない預貯金の管理は任意後見で備える、という組み合わせがあります。続けてかかる費用や、受託者と任意後見人の役割の分け方も含めて、組み合わせ方を決めます。

Q
それぞれの費用は誰が負担しますか?
A

法定後見の申立ての費用は、原則として申立てをした人が負担します。始めた後の後見人や任意後見監督人の報酬は家庭裁判所が決め、ご本人の財産から支払います。受託者や任意後見人の報酬は、契約で決めます。当事務所の家族信託の費用は、家族信託の相談ページに掲載しています。

どの制度が合うかからご相談いただけます

ご本人の今の状態と、自宅の管理や施設との契約など何を任せたいかをうかがい、家族信託・任意後見・法定後見のどれが合うか、組み合わせが必要かを整理します。家族信託の費用や相談の流れは家族信託の相談ページに掲載しています。ご予約は、お電話・メール・LINEで承ります。

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