家族信託と遺言の違い|生前の管理と死後の承継で選ぶ使い分けと併用

親が「そろそろ遺言を書いておこうか」と話し始めたころに、遺言のほかに家族信託という方法があると知り、どちらがよいのか迷う方もいらっしゃると思います。遺言は、亡くなった後に財産を誰に引き継ぐかを決めておくものです。家族信託は、亡くなる前から財産の管理を家族に任せられ、亡くなった後の行き先も決めておけます。

どちらが合うかは、亡くなった後の行き先だけを決めたいのか、亡くなる前の管理も任せたいのかで変わります。この記事では、家族信託と遺言の違いを比較表で整理し、使い分け方、併用する場面、2026年6月に成立した民法改正で遺言について変わることをまとめます。

家族信託と遺言の違いを比較表で確認

家族信託と遺言は、どちらも亡くなった後の財産の行き先を決めておけますが、効力が生じる時期と、亡くなる前の管理を任せられるかどうかが違います。

家族信託遺言
効力が生じるとき契約を結んだときから(亡くなる前から)遺言をした人が亡くなったときから
作り方ご本人(委託者)と受託者が契約を結ぶご本人が一人で、法律で決まった方式(自筆証書・公正証書など)で作る
対象の財産信託した財産だけご本人の財産全体を対象にできる
亡くなる前の管理受託者が契約に沿って管理・処分できるできない(亡くなるまで効力がない)
内容の変更原則として委託者・受託者・受益者の合意で変える。変更の方法を契約で決めておけるご本人がいつでも、遺言の方式に従って書き直せる
亡くなった後の行き先次に利益を受ける人や、信託が終わった後に財産を受け取る人を決められる誰に何を引き継ぐかを決められる
次の世代以降の指定利益を受ける人を順番に決めておける(期間の制限あり)引き継いだ人のその次までは指定できない
始めた後の手間受託者による管理・記録・報告が続く。不動産を信託するなら信託登記、お金を信託するなら信託口口座の準備が必要作った後に管理を続ける必要は基本的にない

どちらが合うかは、亡くなる前の管理が必要かで決まる

家族信託と遺言のどちらが合うかは、亡くなった後の行き先を決めるだけでよいのか、亡くなる前の財産の管理も任せたいのかで分かれます。

亡くなった後の行き先を決めたいだけなら

自宅は長男に、預貯金は長女に、というように、亡くなった後に誰に何を引き継ぐかを決めておきたいだけなら、遺言で足ります。遺言はご本人が一人で作れ、作った後に家族が管理を続ける必要もありません。家族信託は、契約の設計や信託登記、受託者による長い管理が必要になるため、亡くなった後の行き先を決めるためだけに使うと、手間と費用が見合わないことがあります。

亡くなる前から管理を任せたいなら

判断能力が低下した後も自宅の売却や賃貸物件の管理を家族の判断で進められるようにしたい、元気なうちから管理を任せたい、という場合は、遺言では対応できません。遺言は、亡くなるまで効力がないためです。こうした目的には家族信託が合います。介護や施設との契約など、生活面の手続きを任せたい場合は、任意後見も検討します。後見との違いは「家族信託と任意後見・成年後見の違い」で説明しています。

遺言で決められること、決められないこと

遺言では、亡くなった後に誰にどの財産を引き継ぐかを決められます。財産全体を対象にでき、信託していない財産も含めて行き先を決められる点は、家族信託にはない特徴です。

一方で、遺言には次のような限界があります。

  • 亡くなるまで効力がないため、亡くなる前に判断能力が低下しても、遺言で家族に財産の管理を任せることはできません
  • 遺言では、引き継いだ人がその後に亡くなったとき、さらに次に誰が引き継ぐかまでは決められません
  • 遺言の内容がほかの相続人の遺留分(一定の相続人に保障された最低限の取り分)を侵害している場合は、遺留分に相当するお金を請求される可能性があります

遺言は、ご本人がいつでも、遺言の方式に従って書き直せます。民法第1022条 家族の状況や財産が変わったときに、ご本人の判断だけで内容を見直せるのは、遺言の利点です。ただし、書き直せるのは、ご本人が内容を理解して決められるうちに限られます。

自分で書く自筆証書遺言は、法務局に預けておく制度を使えば、亡くなった後に家庭裁判所で行う検認の手続きが要りません。公正証書遺言は、公証人が作り、原本が公証役場に保管されます。どの方式が合うかは、財産の内容や家族の状況によって変わります。

家族信託で、亡くなった後の行き先を決める

家族信託でも、亡くなった後に財産を誰に引き継ぐかを決めておけます。たとえば、ご本人を最初の受益者とし、ご本人が亡くなった後は長男が受益者になる、あるいは信託を終えて長男が財産を受け取る、と契約で決めておく形です。遺言と同じような役割を果たすことから、遺言の代わりとして使う信託(遺言代用信託)と呼ばれます。信託法第90条

遺言と違うのは、亡くなる前から受託者が財産を管理している点です。ご本人が亡くなった後も、それまで管理していた受託者が手続きを引き継ぐため、管理が途切れにくくなります。契約で次の受益者や財産を受け取る人を決めておけば、その財産について遺産分割の話し合いをする必要は基本的にありません。ただし、ほかの相続人の遺留分の問題は、遺言と同じように残ります。

また、行き先を決められるのは信託した財産だけです。信託していない財産の行き先は、遺言で別に決めておく必要があります。

「遺言信託」という言葉は、信託銀行などが提供する、遺言書の作成の相談から保管、亡くなった後の手続きまでを引き受けるサービスの名前として使われることがあり、家族信託とは別のものです。また、遺言の中で信託を設定する「遺言による信託」という方法もあります。信託法第3条第2号 こちらは遺言をした人が亡くなったときに信託が始まるため、亡くなる前から管理を任せる家族信託(契約による信託)とは、始まる時期が違います。

次の世代まで行き先を決めておきたいときは?

次の世代まで財産の行き先を順番に決めておきたい場合は、家族信託の「受益者連続型」と呼ばれる形を検討します。遺言では、引き継いだ人のその次までは決められないためです。

たとえば、「最初は父が受益者、父が亡くなった後は母、母も亡くなった後は長男」というように、受益者を順番に決めておきます。父の財産を母の生活のために使い、最後は長男に引き継ぎたい、といった希望に合う形です。

ただし、何代先まででも決められるわけではありません。受益者が順番に替わる信託は、信託を始めてから30年が過ぎた後に新しく受益者になった人が亡くなるまで(またはその人の受益権がなくなるまで)しか効力がありません。信託法第91条 30年が過ぎると、そこから先の受益者の交代は1回までになる、という意味です。

また、対価を払わずに新しい受益者に替わる場合、新しい受益者は、前の受益者から財産を相続したもの、または贈与を受けたものとして、相続税や贈与税の対象になります。相続税法第9条の2 ほかの相続人の遺留分の問題も残るため、次の世代までの指定は、税金や家族への影響も含めて慎重に検討したうえで内容を決める必要があります。

家族信託と遺言を併用する場面

家族信託と遺言は、組み合わせて使えます。家族信託で扱えるのは信託した財産だけなので、信託しない財産の行き先を遺言で決めておく形が基本です。

たとえば、自宅と預貯金の一部を家族信託で長男に任せ、ご本人が亡くなった後は長男が自宅を受け取ると契約で決めておきます。そのうえで、信託していない預貯金や株式は遺言で長女に引き継ぐ、と決めておく使い方です。

併用するときは、信託契約と遺言の内容が食い違っていないかを確認します。同じ財産について、信託契約では長男、遺言では長女と別の人を指定してしまうと、亡くなった後に家族の間で争いになるおそれがあります。信託する財産と遺言の対象にする財産をはっきり分け、どちらかを見直したときは、もう一方もあわせて確認します。

遺言の見直し(2026年の民法改正)で変わること

2026年6月に成立した民法などの改正には、遺言の見直しも含まれています。施行日は政令で決まり、まだ確定していません。主な変更点は次のとおりです。

押印が任意になる(公布から1年以内に施行)

施行後に作る自筆証書遺言などでは、遺言者や証人の押印が要らなくなります。施行後に作った遺言の一部を書き直す(加除訂正する)ときも同じです

保管証書遺言ができる(公布から3年以内に施行)

パソコンなどで作った遺言のデータや印刷したものを法務局に預け、ご本人が遺言の全文を口述するなどして保管してもらう新しい方式です。オンラインでの申請やウェブ会議での手続きができ、亡くなった後の家庭裁判所の検認も要りません

今の自筆証書遺言の保管制度もデジタル化される

オンラインでの保管の申請や、遺言者が指定した人への通知などができるようになります

今のうちに遺言を書いても大丈夫?

施行日より前に作った遺言は、作ったときのルールで有効かどうかが判断されます。改正法附則第5条 そのため、今の方式に沿って作った遺言が、改正によって無効になることはありません。改正を待たずに、今の方式で遺言を作っておけます。なお、施行日より前に作った元の遺言の一部を、施行後に書き直す(加除訂正する)場合も、作ったときのルールによるため、今のルールどおり押印しておく必要があります。ご本人の判断能力に不安が出てきている場合は、施行を待つ間に遺言を作れなくなるおそれもあります。

改正の内容は、法務省の「民法等の一部を改正する法律(成年後見及び遺言の制度の見直し)について」で公表されています(2026年10月確認)。

家族信託と遺言についてよくある質問

Q
家族信託と遺言はどちらが費用がかかりますか?
A

一般に、家族信託のほうが費用と手間がかかります。家族信託は、契約の設計、公正証書の作成、信託登記などの費用がかかり、始めた後も受託者による管理が続きます。遺言は、自分で書く自筆証書遺言なら費用を抑えられ、公正証書遺言では公証人の手数料がかかります。当事務所の家族信託の費用は、家族信託の相談ページに掲載しています。

Q
家族信託をすれば遺言は要りませんか?
A

要らないとは限りません。家族信託で行き先を決められるのは、信託した財産だけです。信託していない預貯金や株式などの行き先を決めておきたいなら、遺言もあわせて作ります。

Q
家族信託や遺言は後から変更できますか?
A

どちらも変更できますが、方法が違います。遺言は、ご本人がいつでも、遺言の方式に従って書き直せます。ただし、書き直せるのはご本人が内容を理解して決められるうちに限られます。家族信託は、原則として委託者・受託者・受益者の合意で変更し、変更の方法を契約で決めておけます。

Q
銀行の「遺言信託」と家族信託は同じですか?
A

別のものです。信託銀行などの「遺言信託」は、遺言書の作成の相談から保管、亡くなった後の手続きまでを引き受けるサービスの名前として使われています。家族信託は、ご本人が家族と契約を結び、亡くなる前から財産の管理を任せる仕組みです。

Q
遺言は法改正を待ってから書いたほうがよいですか?
A

待つ必要はありません。施行日より前に作った遺言は、作ったときのルールで有効かどうかが判断されるため、今の方式に沿って作った遺言が改正によって無効になることはありません。

遺言で足りるかどうかからご相談いただけます

ご本人の希望と財産の内容をうかがい、遺言で足りるのか、家族信託が合うのか、併用が必要かを整理します。家族信託の費用や相談の流れは家族信託の相談ページに掲載しています。ご予約は、お電話・メール・LINEで承ります。

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