親と話し合って家族信託を前向きに考え始めると、次に気になるのは、何から始めて、どんな書類を、いつまでにそろえればよいかだと思います。家族信託は、ご本人と受託者になる家族が契約を結んで終わりではありません。公証役場で契約を結んだ後、不動産を信託するなら信託登記、お金を信託するなら信託口口座の開設を経て、受託者による財産の管理が始まります。
この記事では、相談から管理開始までの流れを6つの段階に分けて説明し、段階ごとに必要な書類と、家族がすることと専門家に任せられることをまとめます。なお、相談の前に書類をすべてそろえておく必要はありません。
目次
家族信託の手続きの流れ|相談から管理開始まで
家族信託は、相談から受託者による管理が始まるまで、おおむね次の6つの段階で進みます。順番や重なり方は、信託する財産や金融機関との調整によって前後します。
- ご本人の希望と財産を整理する
ご本人がどうしたいか、どんな財産があるか、誰に管理を任せたいかを書き出します。この段階で書類がすべてそろっている必要はありません。
- 専門家に相談し、家族信託が合うかを検討する
ご本人と一緒に面談を受け、家族信託・遺言・任意後見のどれが目的に合うかを確認します。家族信託を進める場合は、支援してもらう範囲と見積りを確かめます。
- 契約の内容を設計し、関係先に事前に確認する
信託の目的、信託する財産、受託者、ご本人が亡くなった後の扱いを決めて、契約書の案を作ります。証明書や戸籍を集め、信託口口座を開く金融機関や公証役場にも、契約の内容を固める前に確認を入れます。
- 公証役場で信託契約を結ぶ
ご本人と受託者になる家族が公証役場に出向き、公正証書で信託契約を結びます。
- 財産を受託者に移す(信託登記・信託口口座)
不動産を信託する場合は、名義を受託者に移す信託登記を申請します。お金を信託する場合は、受託者が信託口口座を開き、ご本人が払い戻したお金をその口座に移します。
- 受託者による管理が始まる
受託者が契約に沿って財産を管理し、記録と報告を続けます。契約の内容を変えるとき、受託者が交代するとき、信託が終わるときにも、あらためて手続きがあります。
相談から管理開始までにかかる期間は、財産の種類や数、金融機関や公証役場との調整によって変わります。特に信託口口座は金融機関の審査があるため、早めに確認を始めます。
相談前に整理しておきたい4つのこと
相談の前に次の4つをメモしておくと、最初の面談で具体的な話ができます。
- ご本人の希望
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財産をこれからどうしたいか。自宅に住み続けたいか、施設に入ったら売ってよいか、亡くなった後は誰に引き継ぎたいか
- 財産のおおまかな内容
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不動産の所在地、預貯金のおおよその額と金融機関、賃貸物件や株式の有無
- 受託者の候補
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財産の管理を任せたい家族と、その人が務められなくなったときに代わりを頼める家族
- 将来売る予定の財産
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施設に入った後に売りたい自宅、建替えや大きな修繕を考えている賃貸物件など
なかでもご本人の希望は、ご家族の考えではなく、ご本人の言葉で確かめておきます。家族信託の契約を結ぶのは、ご本人だからです。固定資産税の課税明細書や不動産の権利証、通帳などがお手元にあれば、相談のときに財産の内容を確認しやすくなります。ただし、書類がすべてそろっていなくても相談はできます。
契約の内容を決めるときに話し合うこと
信託契約の中身は、家族ごとに違います。専門家が契約書の案を作る前に、ご本人と受託者になる家族で、少なくとも次の4つを話し合っておきます。
何のための信託か(目的)
信託の目的は、受託者が財産をどう扱うかを判断するときのよりどころになります。「父の生活と療養のため」「自宅を売却して施設の費用に充てるため」のように、何のための信託かを具体的に決めます。目的があいまいだと、受託者がお金を使ってよいか迷う場面が出てきます。
どの財産を信託するか
財産をすべて信託する必要はありません。将来売る予定の自宅、管理に手間のかかる賃貸物件、生活費に充てるお金など、目的に必要な財産を選びます。預貯金は口座のまま信託できないため、いくらを払い戻して信託するかも決めます。なお、年金を受け取る権利のように信託できない財産や、田や畑のように信託が難しい財産もあります。
受託者と、受託者が務められなくなったときの後任
受託者は、何年にもわたって財産を管理し、記録をつけて報告します。引き受ける家族にその負担を理解してもらったうえで決めます。受託者が先に亡くなったり、病気で務められなくなったりしたときに次に受託者を務める人も、契約で決めておくと管理が途切れにくくなります。なお、未成年の子は受託者になれません。信託法第7条
ご本人が亡くなった後と、信託の終わり方
ご本人が亡くなった後に信託を続けるか終えるか、続けるなら誰が次に利益を受けるか、終えるなら残った財産を誰が受け取るかを決めます。たとえば「父が亡くなった後は母が自宅に住み続け、母も亡くなったら長男が自宅を受け取る」といった決め方です。財産の引継ぎ先を決めるときは、ほかの相続人の遺留分や、相続税の扱いもあわせて確認します。
受託者の負担や家族の間の意見の違いなど、契約前に確かめておきたいリスクは「家族信託のデメリットと危険性」で詳しく説明しています。
必要書類は段階ごとに分けて準備する
家族信託の必要書類は、相談、契約の設計、公証役場での契約、信託登記、信託口口座の開設と、段階ごとに変わります。最初からすべてをそろえる必要はなく、それぞれの段階で必要なものを用意します。主な書類の目安は次のとおりです。財産の内容や金融機関によって、追加の書類を求められることがあります。
| 段階 | 主な書類 | 誰が用意するか |
|---|---|---|
| 相談 | 固定資産税の課税明細書、不動産の権利証(登記識別情報)、通帳など、手元にあるもの | ご本人・家族(なくても相談できる) |
| 契約の設計 | 不動産の登記事項証明書、固定資産評価証明書、将来の相続人を確認するための戸籍 | 専門家が取得(戸籍はご本人の委任状をもとに取得) |
| 公証役場での契約 | ご本人と受託者の、運転免許証などの顔写真付きの本人確認書類と認印、または印鑑証明書(発行後3か月以内)と実印 | ご本人・受託者 |
| 信託登記 | 不動産の権利証(登記識別情報)、ご本人の印鑑証明書(作成後3か月以内)、受託者の住民票、固定資産評価証明書、信託目録に記録する内容、登記原因証明情報、委任状 | 証明書はご本人・受託者。登記原因証明情報・委任状などの申請書類は司法書士が作成 |
| 信託口口座の開設 | 信託契約の公正証書、受託者の本人確認書類など(金融機関によって異なる) | 受託者 |
印鑑証明書には期限があります。公証役場で本人確認に使う場合は発行後3か月以内、信託登記に使う場合は作成後3か月以内のものが必要です。不動産登記令第16条 早く取りすぎると使えなくなることがあるため、取得の時期は専門家の案内に合わせます。
戸籍や証明書は誰が集める?
契約の設計に使う登記事項証明書や固定資産評価証明書、ご本人の将来の相続人を確認するための戸籍は、依頼を受けた専門家が集められます。戸籍は、ご本人から委任状をいただいたうえで取得します。ご本人や受託者の側でご用意いただくのは、印鑑証明書や本人確認書類など、ご本人・受託者ご自身の書類が中心です。
公証役場・法務局・金融機関で行う手続き
契約の内容が固まったら、公証役場で契約を結び、信託する財産に応じて、法務局での信託登記や金融機関での信託口口座の開設へと進みます。
公証役場で信託契約を結ぶ
信託契約は、法律上は公正証書でなくても結べます。ただし、信託口口座を開く金融機関から公正証書を求められることがあり、公証人がご本人の意思を確認して作ることで、契約の内容と意思確認の経過を公的な書面に残せます。公正証書にしても、判断能力や契約の内容をめぐる争いがなくなるわけではありませんが、当事務所では信託契約を公正証書で作成しています。
契約の当日は、ご本人と受託者が公証役場に出向き、公証人の前で契約の内容を確認して署名・押印します。公証人との事前の打ち合わせは、依頼した専門家が行います。
不動産の信託登記
不動産を信託した場合は、法務局に信託登記を申請し、登記簿の所有者の欄を受託者の名前に変えます。あわせて、信託の目的や受益者、受託者の権限などを記録した信託目録が作られます。登記を見れば、その不動産が信託された財産であることが分かります。
受託者の名義になっても、受託者が自由に使ってよい財産になるわけではありません。受託者は、信託した不動産を自分の財産と分けて管理する義務を負います。信託法第34条
信託登記には登録免許税がかかり、金額は不動産の固定資産税評価額をもとに計算します。登録免許税は、司法書士に依頼しても、ご自身で申請しても同じようにかかります。
信託口口座の開設
信託口口座は、受託者が金融機関で開きます。信託口口座を取り扱っていない金融機関もあり、取り扱っている金融機関でも開設には審査があります。契約の内容を固める前に金融機関に確認しておき、契約を結んだ後に、受託者が公正証書などを持って手続きします。口座が開けたら、ご本人が払い戻したお金を移し、受託者による管理が始まります。
家族がすることと、専門家に任せられること
家族信託の手続きには、ご本人や家族でなければできないことと、専門家に任せられることがあります。主な役割は次のとおりです。
| 担う人 | 主にすること |
|---|---|
| ご本人 | 財産をどうしたいかを決めて伝える。面談に参加する。公証役場で契約を結ぶ。払い戻したお金を信託口口座に移す |
| 受託者になる家族 | 受託者を引き受けるかを決める。公証役場で契約を結ぶ。信託口口座を開く。管理を始めた後の記録と報告 |
| 司法書士 | 家族信託が合うかの検討。契約の内容の設計と契約書の案の作成。証明書や戸籍の取得。公証役場・金融機関との打ち合わせ。信託登記の申請 |
| 税理士 | 相続税の試算や、信託した財産に関する税金の申告など |
ご本人の希望や、誰を受託者にするかは、専門家が代わりに決めることはできません。専門家の役割は、ご本人と家族が決めたことを実現できる契約の形に整え、関係先との手続きを進めることです。当事務所では、上の表の司法書士の範囲をお手伝いし、税金に関するご相談は提携している税理士が担当します。
家族信託の手続きは自分でできる?
法律上は、専門家に依頼せず、ご本人と家族だけで家族信託の手続きを進められます。信託契約を結ぶのに専門家の関与は求められておらず、信託登記もご自身で申請できます。
ただし、自分で進める場合は、次の点をご自身で確認する必要があります。
- 信託の目的や受託者の権限が、将来の売却や借入れ、財産の引継ぎまで見すえた内容になっているか
- 信託口口座を開く金融機関が求める内容を、契約書が満たしているか
- 信託登記の申請書類と、信託目録に記録する内容をそろえられるか
- 贈与税・相続税・所得税の扱いを確認したか
インターネットで公開されている契約書のひな形をそのまま使うと、こうした点が家族の事情に合わないことがあります。判断に迷う点があれば、契約を結ぶ前に専門家に確認しておけば、後から契約を作り直す手間を避けられます。
費用と期間は依頼前に確認する
家族信託の費用は、専門家への報酬と、報酬のほかにかかる実費に分かれます。見積りを見るときは、次の3つを分けて確認します。
- 専門家への報酬:信託の設計、契約書の作成、信託登記などの報酬
- 実費:公証人の手数料、信託登記の登録免許税、証明書や戸籍の取得費用など
- 始めた後にかかる費用:契約の内容を変えるとき、受託者が交代するとき、信託を終えるときの手続きの費用
相談から管理開始までの期間は、財産の種類や数、金融機関や公証役場との調整によって変わります。施設への入所や不動産の売却など、期限のある予定があれば、相談のときに伝えておくと段取りを組みやすくなります。当事務所の報酬と、報酬のほかにかかる費用は「家族信託の相談ページ」に掲載しています。
家族信託の手続きについてよくある質問
必要ありません。相談のときは、ご本人の希望、財産のおおまかな内容、受託者の候補をメモしておけば十分です。固定資産税の課税明細書や通帳などがあれば財産の内容を確認しやすくなりますが、証明書や戸籍は、依頼を受けた後に専門家が集められます。
法律上、家族全員の同意は必要ありません。信託契約は、ご本人と受託者の2人で結ぶ契約です。ただ、ご本人の意思をほかの家族に伝えておくと、後から受託者の管理に疑いを持たれたときに、受託者が説明しやすくなります。
診断名だけでは決まりません。ご本人が、誰にどの財産を任せ、管理や売却、亡くなった後の引継ぎがどう変わるのかまで理解して自分で決められる状態であれば、診断後でも進められる場合があります。日常の会話ができるだけでは足りず、個別に慎重な確認が必要です。判断能力が失われた状態になった後は、新しく家族信託を始めることはできません。
法律上はできます。ただし、受託者の権限、金融機関が求める契約の内容、信託登記の書類、税金の扱いなどを、ご自身で確認する必要があります。判断に迷う点があれば、契約を結ぶ前に専門家に確認しておけば、後から契約を作り直す手間を避けられます。
終わりではありません。契約の後に、不動産を信託するなら信託登記、お金を信託するなら信託口口座の開設を行い、受託者による管理が始まります。管理が始まった後も、受託者は記録と報告を続け、契約の内容を変えるときや信託が終わるときには、あらためて手続きが必要です。
家族信託の進め方からご相談いただけます
ご本人の希望と財産の状況をうかがい、家族信託が合うか、どのような段取りで進めるかを整理します。費用や相談の流れは家族信託の相談ページに掲載しています。ご相談には、委託者になるご本人と一緒にお越しください。ご予約は、お電話・メール・LINEで承ります。
事務所での面談のほか、オンラインでもご相談いただけます