家族信託の手続きと流れ 必要書類・決めるべき項目について解説

高齢化が進む現代、財産管理の手法として家族信託が注目されています。

家族信託は、家族や親戚などの信頼できる人に自分の財産を管理してもらう資産管理手法です。認知症で財産管理ができない場合や、不動産経営の円滑な引き継ぎ、障がいのあるお子様の生活保障などさまざまな場面で活用されています。

ここでは、家族信託の手続きや必要書類のほか、手続きを自分で進める場合のメリット・デメリットについて解説します。

家族信託の手続き①:家族で話し合う

家族信託を行う際、もっとも重要なことは家族でしっかり話し合うことです。家族信託が始まれば家族に長期間ご自分の財産を託すことになるため、何のために・どのように財産を運用するのか認識を共有しておく必要があります。

話し合いは家族全員で行い、じっくり時間をかけましょう。財産を託す人と管理する人だけで決めてしまうと、相続や税金をめぐりトラブルになるおそれがあります。家族信託に精通した専門家を交えて話し合いを行えば、疑問点や懸念を解消できます。

家族信託の目的を明確にする

家族信託を始めるにあたっては「何のために信託するのか」といった目的を明確に決めて、家族でイメージを共有することが大切です。

目的を明確にしていないと、財産管理の過程で混乱や不信感が生まれ、財産管理が円滑に行えなくなるおそれがあります。

家族信託の代表的な活用例には次のようなものがあります。

家族信託の活用例
  • 親が将来認知症になり財産を管理できなくなった場合に備えて、親の預金を子どもが管理して生活費を出せるようにしたい
  • 投資用マンションを経営しているが、持ち主が亡くなったあとマンションが相続人に共有されると管理に支障をきたす可能性があるので、管理は1人に任せつつ家賃収入は相続人全員で平等に分けたい
  • 親が亡くなった後も障がいのある子が生活費に困らないように、別の子に財産を管理してもらいたい

受託者・受益者などを決める

一般的な家族信託に登場する人物は大きく分けて3人です。

家族信託の登場人物
  • 委託者:財産を持っており、財産の管理を家族などに託す人
  • 受託者:委託者に財産管理を託され、管理・運用していく人
  • 受益者:信託された財産から生じる経済的利益(家賃収入など)を受け取る人

受託者は委託者の財産を管理するため、権限が大きい一方で責任は重くなります。信頼できる人を選ぶとともに、受託者の権限や責任について家族全員がしっかり理解しておくことが大切です。

また、受益者は委託者と同じ人にすることもできます。その場合、委託者はご自身の財産を受託者に管理・運用してもらい、運用中に生じた利益は自分で受け取れます。

さらに、当初の受益者が亡くなった後の第二受益者を決めることもできます。たとえば経営しているマンションについて、当初はご自身で家賃収入を受け取り、ご自身が亡くなった後は配偶者の方に受け取ってもらうといった活用が可能です。

託す財産を決める

信託の目的や受託者・受益者などを決めたら、どの財産を受託者に管理してもらうかを決めます。成年後見制度では、後見人は被後見人の財産をまとめて管理しますが、家族信託では信託財産として定めた財産だけを受託者が管理します。

信託財産の決め方として、次のような例が考えられます。

信託する財産の決め方の例
  • マンション経営の家賃収入を受益者が受け取ることを目的とした信託:そのマンションを信託財産とする
  • ご自身が経営してきた株式会社を次の世代に円滑に引き継ぐことを目的とした信託:会社の株式を信託財産とする

信託終了時の帰属権利者または残余財産受益者を決める

家族信託においては、信託終了の原因となる出来事を契約で定めます。

たとえば、親が認知症になった場合に親の生活を保障することを目的として信託をするのであれば、「親が亡くなった時に信託を終了する」と決めることができます。また、契約で定める終了原因のほかに、法律上終了原因として定められているものもあります。

信託された財産のうち、信託終了時に残っている財産をどうするかについては、信託の開始時に契約で定めます。家族信託は長期間にわたって活用する制度ですが、先を見据えて終了後の財産についても定めておきましょう。

家族信託の手続き②:信託契約書を作成する

家族信託の内容が固まったら契約書を作成します。「こんなはずではなかった」というトラブルを防止するため、契約書は可能な限り明確な文言で記載することが大切です。

司法書士をはじめとする、制度に精通した専門家に依頼すれば、ご家族の思いを実現する文言を検討してもらえます。

信託契約書の項目

家族信託契約書に記載する項目は、契約内容によって千差万別です。一口に家族信託といっても、どのような目的で行うか、受託者にどのような権限を与えるかなどはそれぞれの家族によって一つひとつ異なるためです。

インターネット上のひな型に頼るのではなく、ご自身とご家族の思いを実現する契約内容になるように、記載事項を検討する必要があります。

契約書に最低限盛り込む事項としては、以下が挙げられます。

信託契約書に盛り込む内容
  • 信託の目的
  • 委託者、受託者、受益者などの当事者
  • 信託の対象となる財産
  • 受託者の権限
  • 信託の期間
  • 信託が終了する原因となる出来事
  • 信託終了後の財産の帰属先

信託契約書の作成は公証役場で行う

契約書の記載事項や文言が決まったら、公証役場で契約書を公正証書にしてもらいます。法律上、公正証書にすることが義務づけられているわけではありませんが、公正証書にすると次のようなメリットがあります。

公正証書にするメリット
  • 契約書が当事者の意思に基づいて作成されたことに法律上強い推定がはたらくため、トラブルの防止になる
  • 公証人が契約書の内容をチェックしてくれる
  • 原本は公証役場で20年間保管され、契約書を紛失する心配がない

後日のトラブルを防ぐためにも、契約書を公正証書にしておくことをおすすめします。

公正証書作成に必要となる書類

公正証書を作成する際は、資料となる書類を準備しなければなりません。必要書類は信託契約の内容によってさまざまですが、一般的には次のような書類が必要です。

公正証書作成の資料
  • 委託者と受託者の実印
  • 委託者と受託者の印鑑証明書
  • 戸籍謄本や住民票
  • 不動産の登記事項証明書(信託財産に不動産が含まれる場合)
  • 不動産の固定資産評価証明書(信託財産に不動産が含まれる場合)
  • 運転免許証やパスポートなど本人確認書類

家族信託に関するサポートを専門家に依頼すれば、必要書類や準備する時期についてもアドバイスを受けられます。

家族信託の手続き③:信託財産の名義変更

信託の対象となる財産に不動産が含まれている場合は、不動産を受託者名義に変える登記を申請しなければなりません。信託が行なわれると不動産の名義が形式的に受託者に移り、それに合わせて登記名義を変更する必要があるためです。

なお、登記簿には不動産の売買や贈与などによる名義替えではなく、信託であるとの記載がなされます。このため、第三者から見てもその不動産が受託者の持ち物ではなく、信託されたものであることがわかります。

不動産の名義を変更する際の費用

家族信託に際して、不動産の名義替えの登記を申請する場合は、登録免許税を納める必要があります。登録免許税は、固定資産税評価額×税率(登記の種類によって異なる)で求められます。

固定資産税評価額は、固定資産税の課税明細書や固定資産評価証明書に記載されています。

課税明細書は、固定資産税納税通知書とともに送付されます。固定資産評価証明書については、不動産のある市町村役場で取得して確認しましょう。

なお、登録免許税は登記申請時に納める必要があります。家族信託の手続きを司法書士などの専門家に依頼せずご自身で行う場合でも、同じ金額が発生します。

不動産の名義を変更する際に必要となる書類

不動産の名義変更を行う際は、次のような書類が必要です。

不動産登記の必要書類
  • 登記原因証明情報
  • 不動産の権利証や登記識別情報
  • 委託者の印鑑証明書
  • 受託者の住民票
  • 不動産の固定資産評価証明書
  • 信託目録に記載する事項を記録したCD-Rなど

信託による不動産登記の手続きは専門性が高く、一般の方がご自身で行うのは現実的ではないため、登記手続きのプロである司法書士に依頼することをおすすめします。

契約の段階から司法書士に手続きをサポートしてもらえば、登記が必要な場合はその司法書士に登記申請を任せられます。

家族信託の手続き④:信託口口座の開設

信託財産に現金や預金がある場合は、金融機関に信託専用の口座を作って管理しなければなりません。専用の口座を作らないと、受託者の個人財産と区別できなくなるおそれがあるためです。

また、委託者名義の口座をそのまま信託専用の口座として使うことはできません。委託者名義の口座に入っている預金を信託財産とする場合は、新たに作った信託専用の口座に送金する必要があります。

信託専用の口座を作るときは、信託法に沿って運用される信託口口座を作るとよいでしょう。信託口口座は、信託専用口座であることを明確にするため「委託者〇〇受託者××信託口」といったように、委託者と受託者の名前が口座名義として記載されています。

ただし、信託口口座を作れるかどうかは金融機関によって異なります。現金や預金を信託する場合は、事前に金融機関に相談しておきましょう。

信託口口座を開設しない場合は、受託者名義の普通預金口座を開設して、口座番号を信託契約書に明記して管理することも可能です。この場合は、受託者個人の財産と混ざってしまわないように管理方法に注意しなければなりません。

家族信託手続きの注意点

家族信託は、財産管理の方法を長期間にわたって決められるうえ、遺言の代わりとして使うこともできる制度です。ただし、永遠に信託の効力が続くわけではありません。

家族信託には「30年ルール」という制限があります。これは、信託開始から30年経過後は、受益者の承継が1度しか認められないというものです。

たとえば、当初は委託者が受益者を兼ねていた場合に、信託が設定されてから30年経過してから委託者が亡くなり、委託者の子が受益者となったとします。この場合、委託者の子が死亡すると、次の世代へと財産を引き継ぐことはできません。

家族信託の手続きを個人で行うメリット

家族信託の手続きは必ずしも専門家に依頼しなければならないわけではなく、法律上はご自身で行うことも可能です。手続きをご自身で行うメリットは、費用を抑えられることです。

専門家に依頼すると、次のような費用がかかります。専門家の報酬は事務所により異なりますが、一般的な相場をご紹介します。

家族信託の専門家費用の相場
  • 相談、コンサルティング料:1億円以下の部分について信託財産の1%程度、1億円を超える部分について0.5%程度
  • 公正証書作成サポート料:約10万円~15万円程度
  • 不動産登記報酬:約10万円~15万円程度

ご自身で手続きすれば専門家に報酬を支払う必要はありません。ただし、公正証書作成の際に公証役場に支払う費用や不動産登記にかかる登録免許税は、ご自身で手続きしたとしても支払う必要があります。

家族信託の手続きを個人で行うデメリット

家族信託の手続きをご自身で行うデメリットは、専門家の知識やノウハウを活用できないことです。

家族信託は法律の中でも専門性が高く、一般の方にはハードルの高い手続きです。また、税金や相続などの知識がなければ、思わぬトラブルにつながるおそれがあります。そのほか、戸籍謄本の準備や公正証書作成準備に手間・時間もかかってしまいます。

このように考えると、家族信託は経験豊富な専門家に依頼して、アドバイスを受けながら進める方が現実的といえます。専門家に依頼すれば、正確な知識に基づくサポートを受けられるほか、家族から出てきた疑問点・懸念を速やかに解決することができます。

相談や手続き代行に費用はかかりますが、将来のトラブルを防ぎ、スムーズに家族信託を行うためにも、専門家への依頼をおすすめします。

家族信託の手続きを依頼する専門家の選び方

家族信託の手続きを法律の専門家とともに進めたいとき、どのように専門家を選べばよいのでしょうか。

家族信託は、2007年の改正信託法で登場した比較的新しい制度です。そのため、弁護士や司法書士など、法律の専門家でも家族信託に精通しているとは限りません。

また、適切なアドバイスを受けながら手続きを円滑に進めるためには、成年後見・相続・登記などについても十分な知識と経験が求められます。必要な場合には、他士業と連携が求められるケースもあります。

専門家を選ぶときは、家族信託の分野に強く、成年後見や相続についても豊富な知識と経験を持つところに依頼しましょう。

家族信託の依頼は司法書士へ

家族信託は、信託の目的や財産の種類などによってさまざまな方法があります。

契約段階から司法書士に依頼すれば、契約内容のアドバイスや公正証書作成のサポート、不動産登記までをワンストップで支援を受けられます。

司法書士事務所神戸リーガルパートナーズは、家族信託はもちろん、成年後見・相続などに豊富な実績を持ち、依頼者の方に最適なアドバイスとサポートを提供し続けています。

家族信託をご検討の方は、司法書士事務所神戸リーガルパートナーズにご相談ください。