相続は、誰もが直面する可能性のある大きな問題です。
しかし、相続を一生のうちに何度も経験することは無く、そのため、いざ相続が発生したときに「何から手を付けていいのかわからない」となるのも無理のないことです。
相続は、相続人、相続財産とその評価、分割方法、税金問題、祭祀など様々な要素が絡み合ってきます。そのために、手続きが非常に複雑になります。
そして、相続は大小さまざまな財産を扱うだけに手際よく手続を進めるのは非常に難しいく、場合によっては思ったより時間がかかってしまったり、少しの手違いや感情のもつれで相続人間のトラブルに発展してしまったりすることがあります。
また、インターネットの情報だけで素人判断をして相続を進めたために大失敗ということも起こりえます。
ここでは相続手続きの進め方を説明します。
ただし、実際に相続手続きをする際は、トラブルを未然に防ぐためにも一度は専門家に相談してみることをお勧めします。
目次
相続が開始したらまず確認すること
相続人は誰か
まずは誰が相続人であるかを確認しないと手続きを進められません。遺言があれば別ですが、遺言がなければ相続人全員が協力して手続きをしなければならないからです。
配偶者は常に相続人になる
- 第一順位 子(子が先に亡くなっていたら、その人の子)
- 第二順位 直系尊属(両親、祖父母などのうち親等の近い人)
- 第三順位 兄弟姉妹(先に亡くなっていたら、その人の子)
おそらく一番多いのは、配偶者と子が相続人になるケースで、その多くはあえて相続人を確認しなくても誰が相続人かはわかりきっているかもしれません。
しかし、司法書士として相続手続きをしていると、思わぬ相続人が出てくることがあります。
例えば
- 被相続人には前にも結婚していたことがあり、そのときにも子どもがいた
- 実は認知した子どもがいた
- 独身だと思っていたら外国人と結婚していて、そのうえ子どもまでいた
このようなケースは稀なのかもしれませんが、相続人が誰かというのは、戸籍を集めてみないと確定はできません。
そのため、相続人を確定させるために、まずは戸籍を収集する必要があります。
相続財産は何か
相続により、被相続人の全ての財産が相続人に移転します。
被相続人が所有していた預貯金や不動産などのプラス財産が移るのはもちろんのこと、被相続人に借金などのマイナス財産がある場合にはマイナス財産も相続人が引き継ぐことになります。
相続財産の全てが相続人に分かるように残されていれば良いのですが、そもそもその所在が明らかでないものがあることがあります。
銀行口座は、通帳やキャッシュカードがあれば判明します。しかし、最近では証券会社との取引はインターネット取引が増えてきていますし、仮想通貨取引はほぼインターネット上で行われます。このような取引をしていた可能性がある場合には、問い合わせをしてみる必要があるかもしれません。
財産の詳細が分からないと、相続するのかしないのかすら決められません。後でも説明しますが、相続放棄の期限は3か月です。この期間内にある程度の財産を把握する必要があります。そのためには、相続財産にはどのようなものがあるのか、その評価はどの程度か、負債はないかなどの調査が欠かせません。
手付かずのままに放置しておくと相続人の方に思わぬ不利益が及ぶこともありますので、大切なご家族を亡くされて気持ちの整理がつかない状態でも、相続という問題に対処しなければなりません。
遺言はあるか
遺言があるかどうかも確認が必要です。
生前から遺言があることをオープンにされていれば確認は簡単です。しかし、そうではない場合には、被相続人の書棚、引き出し、持ち物を調べると遺言が出てくることがあります。
公証役場に行けば、公正証書で遺言を作成していないかを検索して調べてもらうことができます。また、自筆証書遺言を法務局で保管する制度が始まったので、法務局で遺言が保管されていないかも調べることができるようになりました。
遺言がある場合には、原則として遺言に従って財産を分配します。
相続するかしないかを決める
相続人や相続財産が判明したら、次にすることは相続するのかしないのかを決めることです。
決め方には、3つの種類があります。
- 単純に遺産を全て相続する単純承認
- 遺産の全てを放棄する相続放棄
- 遺産を清算しながら相続するという限定承認
なお、相続放棄と限定承認は、どちらも管轄の家庭裁判所での手続きが必要となります。
単純承認
単純承認とは、相続財産をプラスの財産もマイナスの財産(負債)も全て引き継ぐ方法です。相続開始を知った時から3か月以内に限定承認または相続放棄の手続きをとらない場合、自動的に単純承認となります。
また、下記の場合には単純承認したことになります。
- 相続財産の全部又は一部を処分したとき
- 限定承認又は放棄をした後でも、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私的にこれを消費し、又は悪意でこれを財産目録に記載しなかったとき
これらの場合は、相続する意思がなかったとしても、単純承認したことになり全ての財産と負債を相続することになりますので注意してください。
相続放棄
相続が開始されても
- 相続財産には借金の方が多い
- 相続財産をもらわなくても生活できるし、それより相続争いに巻き込まれたくない
- 被相続人と長い間交流がなかったので相続で関わりたくない
などという場合があります。この場合に、選択できる方法が「相続放棄」です。相続放棄は、相続開始を知った日から3か月以内に家庭裁判所に申し立てる必要があります。
相続放棄をすると、最初から相続人ではなかったことになり、相続財産はプラスのものもマイナスのものも一切相続しません。
相続放棄についてもっと詳しく 相続放棄
注意 仲の良い家族で、例えばお父さんが亡くなり、全てをお母さんが相続することでみなさんの合意ができたときに、「子どもたちが相続を放棄した」ということがよくあります。しかし、これは法律的な意味での相続放棄ではなく、遺産分割の話し合いがまとまったということになります。この場合、子どもたちが全員家庭裁判所で相続放棄をすると、第二順位、第三順位の相続人が出てきて相続関係が変わってしまうので注意してください。一度家庭裁判所で相続放棄をすると無かったことにはできませんので、本当に家庭裁判所で相続放棄すべきかは専門家に相談してからがおすすめです。
限定承認
プラスの財産もあるが、マイナスの財産もあり、どちらが多いか分からない場合があります。この場合、プラス財産の限度でマイナス財産の相続をするのが「限定承認」です。
限定承認をするためには、相続人が相続開始を知った日から3か月以内に、家庭裁判所に限定承認の申立てをしなければならないことで、その際に、相続人が複数名いる場合、相続人全員がで申立てする必要があります。もしも3か月を超えてしまった場合は、原則としてプラスの財産もマイナスの財産もすべて相続する「単純承認」をしたとみなされます。
熟慮期間の伸長
相続放棄や限定承認は、相続開始を知った日から3か月以内にする必要があり、3か月を過ぎてしまうと単純承認したことになります。この3か月の期間を熟慮期間といいます。
しかし、財産の種類が多かったり、事業をしていて債権債務が複雑であるような場合、相続財産の調査に時間がかかってしまい、3か月では相続財産を把握しきれないことも少なくありません。そういう場合には、熟慮期間を延ばしてもらうために、家庭裁判所に熟慮期間の伸長を求めることができます。
相続することに決めた場合の手続き
相続放棄や限定承認をしないで相続することに決めたら、具体的に財産を引き継ぐ手続きを進めていきます。
相続人が一人だけであれば、一人で全てを相続するので、一人で相続手続きを進めればいいです。また、遺言があり、遺言の中で財産の帰属先が具体的に決まっていれば遺言を使って手続きを進めることもできます。
でも、そうでない場合の方が多く、その場合は誰がどの財産をどの割合で相続するかを決めてから、各財産を引き継ぐ手続きをします。
遺産分割
遺産分割は、相続人同士で、誰がどの財産をどの割合で相続するかを決める話し合いです。
遺産分割は、相続人全員で合意する必要があり、一部の人を除外してはできません。相続人の中に行方不明の人がいるような場合、不在者財産管理人の選任や失踪宣告が必要になることもあります。
遺産分割は、法定相続人にこだわる必要はなく、一人の人が全てを相続すると決めることもできます。実際に、お父さんの財産をお母さんが全て相続して、子どもは何も相続しないとするような遺産分割はよくあります。
遺産分割がまとまったら、遺産分割協議書を作成して、相続人全員で署名・押印します。その後は、各財産の相続手続きに入ります。
相続登記(不動産の名義変更)
相続財産に土地や建物の不動産があるときは、不動産の名義変更(相続登記)をします。
これまでは相続登記はいつまでにしなければならないという期限は定められていなかったので、相続登記をしないで被相続人の名義のままということもありました。しかし、相続登記を義務化するように法律が改正されたので、これが施行されると、相続で土地の取得を知った日から3年以内に相続登記をしないと10万円以下の過料に処せられる可能性もあるので、できるだけ早めに相続登記をするのが良いでしょう。
相続登記を代理人として法務局に申請できるのは司法書士と弁護士だけです。他の資格の方に依頼しないようご注意ください。もちろん司法書士事務所神戸リーガルパートナーズも相続登記を取り扱っています。
相続登記についてもっと詳しく 相続登記
預貯金など金融機関の手続き
預貯金や証券会社の金融資産についても、相続手続きをしないと引き出して使うことができません。
銀行預金については、遺産分割前でも相続人が残高の一部に限り引き出せる制度ができました。また、残高が少額であるときは、あまり細かい手続きを取らなくても金融機関が引き出しに応じることもあるようです。しかし、それ以外の場合に、預貯金を全額相続で引き出そうと思えば、銀行で手続きをしないといけません。
銀行の口座の相続は、口座を解約して相続人の口座に振り込むか、口座の名義を変更するかを選べます。
証券会社は、銀行とは少し違う手続きが必要です。証券会社の口座にある株式や投資信託を相続するには、相続人名義の口座を開設して、開設した相続人名義の口座に株式や投資信託を移管します。もし、株式や投資信託を売却してその代金を相続人間で分けることにした場合も、一旦相続人の誰かの口座に移管してから売却し、その後に代金を分けることになります。
面倒な相続手続きを全てまかせたい(遺産承継業務)
実際に相続手続きを自分でしようとすると、役所も金融機関も平日しか開いていませんので、場合によっては何度も窓口に足を運んだり連絡したりする必要もあり、仕事を休む必要もあるかもしれません。
または、会ったこともない相続人がいる場合、誰かに連絡をしてもらいたいと思うこともあるでしょう。
そのようなとき、司法書士事務所神戸リーガルパートナーズの遺産承継業務では、相続人間の連絡、書類の取り寄せ、各種相続手続きをまるごとおまかせしていただけます。
相続手続きが面倒、仕事をしていてい相続手続きをする時間がないといった場合に、相続手続きを専門家に全てまかせてしまいたいというときは、遺産整理業務がおすすめです。
遺産承継業務についてもっと詳しく 遺産承継業務
相続に外国人や外国が関係しているとき
ここまでの話は全て日本の相続についてですが、相続に外国人や外国が関係することも珍しくなく、その場合は少し違った相続手続きが必要になります。
- 被相続人が外国人
- 相続人が海外に居住している(日本人、外国人どちらもあります)
- 相続財産が海外にある
司法書士事務所神戸リーガルパートナーズは、外国人や外国が関係した国際的な相続を積極的に扱っている事務所です。
被相続人が外国籍である場合の相続手続き
被相続人が外国籍の方である場合、相続にどの国の法律ができようになるのか、相続手続きでどんな書類を揃えるのかという問題があります。
外国籍の方が日本に住んでいて日本で亡くなったら日本の法律で相続手続きをすると思っている方もいらっしゃいますが、必ずしもそうではありません。亡くなった方の国の法律によって、相続にその国の法律が適用されたり日本の法律が適用になったりします。そのために外国法も調べる必要があります。
また、日本人であれば戸籍を揃えることで誰が相続人かを確定させることができますが、外国では戸籍がない国がほとんどなのでどのような書類を揃えるかが問題になります。
外国人の方の相続についてもっと詳しく 外国人の方の相続登記
相続人が海外に居住している場合の相続手続き
相続人が海外に居住している場合や、海外の居住国でその国の国籍を取っていることもあります。このような場合には、日本に住んできる方とは違う書類を揃えなければなりません。
日本にいる相続人が専門家に相続手続きを依頼したものの、外国に相続人がいるような相続に慣れていないため手続きが思うように進まず、外国にいる相続人の方から当事務所に相談が入ることもあります。海外に居住している相続人がいる相続手続きは司法書士事務所神戸リーガルパートナーズにご相談ください。
海外居住の相続人がいる場合についてもっと詳しく 相続人が海外に居住している場合
海外資産の相続手続き
被相続人が海外に資産を持っていることも珍しくありません。例えば、ハワイにコンドミニアムを所有しているとか、海外に銀行口座や証券口座を持っているというケースです。
海外資産の相続手続きは、日本の相続と同じようにできるとは限りません。例えばハワイのコンドミニアムの名義変更しようとすれば、裁判所でプロベートという手続きを経なければなりません。
海外資産の相続手続きは、日本から手続きを進めることができることもありますが、現地の専門家の協力がなければ進められないこともあります。
司法書士事務所神戸リーガルパートナーズは外国の専門家とも協力して海外資産の相続手続きを進めることができます。
海外資産の相続についてもっと詳しく 海外資産の相続
相続発生前(生前)の手続き
生前に行える相続対策手続として、遺言書の作成、生前贈与や民事信託(家族信託)があります。
遺言書の作成
遺言書の作成は、生前にできる相続手続きの基本です。ただし、自筆で作った遺言が無効になったり、後の事を考えない遺言でかえって紛争を招いてしまうことも少なくありません。事前によく考えて遺言を作ることが必要です。
遺言書についてもっと詳しく 遺言書の作成
また、日本に在住される外国人の方は、日本人の相続と違って、亡くなった後の手続きが面倒です。残されたご家族が相続手続きをスムーズに行えるようにに遺言を作成しておくことを強くお勧めします。
外国人の遺言についてもっと詳しく 外国人の方の遺言
生前に財産を移す
生前贈与で生前に財産を渡したい人に、財産を移転しておくこともできます。ただし、税金の問題や後に相続人間でトラブルになることもあるので、税理士も含めて事前によく検討してからにすべきです。
生前贈与についてもっと詳しく 生前贈与
民事信託(家族信託)も相続対策として有効です。まだ、あまり馴染みのない手続きですが、様々な場面で利用価値があります。
民事信託についてもっと詳しく 民事信託(家族信託)