家の名義を夫から妻に変更したいという相談があります。
家の名義を夫から妻に移す理由は主に3つで、それぞれで手続きや費用、かかる税金が異なります。
中には、家の名義変更を今してしまうと、結果的に損することになりかねず、結果的に「やっぱり今はやめておいて後にします」というケースもあります。
この記事では、どういう場合に家の名義を夫から妻に変更するのかとその手続きや税金などのポイントについて説明します。
目次
夫から妻への名義変更が必要になる場合
家の名義変更登記を申請するとき、どういう法律的な原因によって家の権利が夫から妻に移転したのかを申請書に書く必要があります。そして、その権利が移転した法律上の原因が登記簿にも記載されます。
法律上の原因というと難しく聞こえますが、夫から妻に家の名義変更するときの原因は主に次の3つ。
- 相続
- 贈与
- 財産分与
相続は、夫が亡くなり妻が家の権利を承継すること。遺言があるときは遺贈という原因もありえますが、夫婦間だと遺言があっても相続の方が多いでしょう。
贈与は、無償で(タダで)夫から妻に家をあげること。これに対し有償で権利を移転すると売買になります。
財産分与は、離婚の際に夫から妻に家の名義を移すこと。司法書士をしていると、弁護士経由で受けることが多いです。
相続による夫から妻への名義変更
夫が亡くなり相続が開始したら、亡くなった夫の遺産は相続人が相続します。家を妻が相続することが遺言書に書かれている場合や、遺産分割協議をして妻が家を相続することになった場合は、家の名義を妻に変更する相続登記をします。
相続登記は、令和6年4月から義務化されます。義務化後は、3年以内の相続登記をしなければなりません。
相続登記の義務化については、当事務所の別サイト神戸相続遺言手続きサポートに詳しく書いています。
関連記事相続登記義務化で誰がいつまでに何をしなければならないのかわかりやすく解説
夫が亡くなって家を誰が相続するか遺産分割協議をするときに、妻が相続しても妻が亡くなるとまた名義変更しないといけないので、子供名義にしようかという話になることがあります。
それはそれでもいいと思うのです。ただ、仮に長男が家を相続したとしましょう。その後もし家を相続した長男が母より先に亡くなると、長男の妻やお子さん(孫)が家を相続します。そのときに「この家は私の家で、売却するから出ていってください。」と言われたらどうしますか?というリスクの話を相談の際にすることがあります。
そのような心配をする必要がない家族もあるでしょうし、そのようなことを考えておいた方が良い家族もあるでしょう。
しかし、これからはそんな心配も必要ないかもしれません。配偶者居住権という制度ができたからです。
配偶者居住権という新たな制度
配偶者居住権とは、夫婦の一方が亡くなった場合に、残された配偶者が、 亡くなった人が所有していた建物に、亡くなるまでまたは一定の期間、無償で居住することができる権利です。つまり、夫が亡くなったとしても、妻が亡くなるまで同じ家に無償で住み続けられる制度です。
例えば、遺産分割で家の名義を長男が相続することにして、妻のために配偶者居住権を設定すれば、夫が亡くなった後も妻は同じ家に住み続けることができます。
配偶者居住権は、遺産分割協議、遺言等で成立します。例えば、遺産分割の際に家の名義は長男にして、母のために配偶者居住権を設定することにすれば、家の名義は息子名義でも、母は生涯同じ家に住み続けることができます。
配偶者居住権も登記をすると、事情を知らない第三者にも配偶者居住権があることを主張できますので、忘れずに登記をしておきましょう。
相続登記の手続き
相続によって夫名義の家を妻が相続したとき、相続登記は妻が単独で申請します。単独で申請するといっても、遺産分割協議によるときは、相続人全員が実印を押した遺産分割協議書などが必要です。相続登記の必要書類は次のとおりです。
- 戸籍謄本(夫の出生から死亡まで、相続人の現在のもの)または法定相続情報一覧図
- 遺産分割協議書(法定相続人全員が実印を押して、印鑑証明書を添付)
- 住民票(相続する妻のもの)
- 固定資産評価証明書など不動産の評価額がわかるもの
- 戸籍謄本(夫と妻が載っているもの)
- 遺言書
- 住民票(相続する妻のもの)
- 固定資産評価証明書など不動産の評価額がわかるもの
この他にも亡夫の除票や権利証が必要になることがあります。
相続したときの税金
夫名義の家を妻が相続したときにかかる税金として、名義変更登記を申請する際にかかる登録免許税があります。登録免許税は、不動産の固定資産評価額の1000分の4が税額です。
不動産のような高価な財産を相続すると、相続税の心配をされる方もいらっしゃいます。ただ、相続税は、不動産を相続したからといってかかるものではなく、相続財産全体にかかるものです。
相続税は、財産の相続税評価額が、「3000万円+600万円×法定相続人の数」を超えたときに、超えた部分に対して課税されます。ただし、配偶者が取得する財産は「法定相続分または評価額1億6千万円まで」相続税がかかりません[1]。
当事務所は、相続税がかかりそうな案件では、相続税に詳しい税理士事務所を紹介しています。
贈与による夫から妻への名義変更
贈与とは、財産を無償で譲渡することです。夫が妻に不動産を贈与したら、夫から妻に不動産名義を変更する登記をします。
夫が亡くなった後も妻が同じ家に住めるようにと、「なんとなく」夫の生前に妻に家の名義変更をしておこうかという相談があります。
ただ、贈与は税金の問題が大きいので、相続対策として税理士とも相談のうえで夫から妻に贈与するのでしたらいいと思います。しかし、そうでない場合は、生前に家の名義を変更する必要があるのか疑問ですし、実際に相談の結果、やっぱり今はやめておくということになることがほとんどです。
贈与したときの税金
贈与税は、贈与を受けた人にかかる税金です。夫が妻に家を贈与すると、妻に贈与税がかかります。
贈与税がかかるかもしれませんよと伝えても、「いくら?そんなに大した金額じゃないでしょ?」と言われる方が多いですが、そんなことはありません。
贈与税は、1年間で受けた贈与の財産の評価額のうち110万円を超える部分にかかります。税率は次の表のとおりです[2]。基礎控除後の金額とは、贈与した財産の評価から110万円を差し引いた後の金額です。
基礎控除後の課税価額 | 税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | ー |
300万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円以下 | 20% | 25万円 |
600万円以下 | 30% | 65万円 |
1000万円以下 | 40% | 125万円 |
1500万円以下 | 45% | 175万円 |
3000万円以下 | 50% | 250万円 |
3000万円超 | 55% | 400万円 |
評価額1000万円の不動産を生前贈与で受け取った場合にかかる贈与税は、
(1000万円 – 110万円)× 30% – 65万円 = 202万円です。
評価額2000万円の不動産を生前贈与で受け取った場合にかかる贈与税は、
(2000万円 – 110万円)× 50% – 250万円 = 695万円です。
高いですよね。こういう数字を実際に見ると、贈与税の高さにみなさん驚かれます。
ところが、専門家に相談するとお金がかかると思うからでしょうか?自分たちだけで贈与の名義変更をして、後で税務署から贈与税の申告をするように手紙が届き慌てることもあるようです。贈与税の申告期限を過ぎてしまうと贈与の取り消しはできませんから[3]、専門家費用より多額の税金を払うことになるかもしれません。
夫婦間で居住用不動産を贈与したときの特例
このように贈与税は高いのですが、婚姻期間20年以上の夫婦間で居住用不動産を贈与したときは「配偶者控除の特例」を適用できて、贈与税が安くなったり全くかからなくなる場合があります。
特例を受けるための要件は[4]
- 夫婦の婚姻期間が20年を過ぎた後に贈与が行われたこと。
- 配偶者から贈与された財産が、 居住用不動産であることまたは居住用不動産を取得するための金銭であること。
- 贈与を受けた年の翌年3月15日までに、贈与により取得した居住用不動産または贈与を受けた金銭で取得した居住用不動産に、贈与を受けた者が現実に住んでおり、その後も引き続き住む見込みであること。
配偶者控除の特例の要件を満たすと、基礎控除の110万円に加えて最高2000万円まで控除できます。合計で2110万円の贈与まで非課税になります。
さらに、もし贈与した夫が贈与から3年以内に亡くなったとき、相続税の計算をするときは、3年以内の贈与は相続財産に含めて計算されるのですが、この特例を使った財産は、相続財産に含める必要はありません[5]。
しかし、上でも述べたように妻の相続税は法定相続分か1億6000万円まで非課税です。この非課税部分を超えて相続するので無い限り、生前贈与が得とは言えません。むしろ、税金高くなるかもしれません。
というのも、贈与を受けると不動産取得税がかかります。一方、相続した場合には不動産取得税はかかりません。また、登記の際の登録免許税の税率は、贈与のときは1000分の20、相続のときは1000分の4と税率が5倍も違います。
夫から妻に不動産の名義を贈与で変更するときは、司法書士や税理士に相続や税金の面から相談して、本当に生前贈与するのが良いのかどうか検討してからにするべきでしょう。
贈与による登記の手続き
夫から妻に家を生前贈与したときの登記は夫と妻が共同で申請しなければなりません。
- 登記原因証明情報(家の贈与があったことを証明する書類)
- 家の権利証
- 夫の印鑑証明書
- 妻の住民票
- 固定資産評価証明書など不動産の評価額がわかるもの
財産分与による夫から妻への名義変更
財産分与とは、夫婦で婚姻中に築いた共有財産を離婚時に分配することです。
離婚の際に財産分与を行い、夫名義や夫婦共同名義の家を離婚後には妻の名義に変更する場合は、夫から妻への名義変更登記が必要になります。
財産分与は、贈与ではなくあくまでも財産の分割なので、基本的に贈与税はかかりません。ただし、財産分与に関する事情を考慮しても受け取った財産が多すぎる場合などには、贈与税がかかることがあります[6]。
住宅ローンが残っているとき
財産分与の際に住宅ローンが無い場合は特段問題は生じませんが、離婚時に住宅ローンが残っている場合は注意が必要です。
通常の住宅ローン契約において、「名義変更する際には銀行の承諾を要する」といった内容が契約内容に含まれている場合がほとんどです。銀行に内緒で名義変更をして、後に万が一銀行に知られた場合は、契約違反として一括返済を求められるなどの契約違反のペナルティを受ける可能性が無いとはいえません。では、銀行が名義変更に承諾してくれるかというと、承諾を得られないのが通常です。
妻に住宅ローンの借り換えをする収入があれば、住宅ローンを妻名義で借り換えて、家の名義を夫から妻に財産分与で移します。ただし、これは妻に十分な収入があるときに取れる方法です。
もう一つの方法は、住宅ローンの完済時を停止条件として、まず仮登記をし、住宅ローン完済時に本登記をする方法です。
仮登記とは、登記簿上の順位を確保するために行われる仮の登記で、将来抵当権が完済されたときに本登記をします。本登記をして、正式な名義変更登記となります。
仮登記をするメリットは、夫が勝手に不動産を処分できなくなることです。仮登記より後にされる登記は仮登記に負けてしまいます。ですから、仮登記後に夫が家の名義を他人に移したとしても、妻が本登記をする際には、他人名義の登記を消すことができるのです。
ただし、本登記ができるのは住宅ローンを完済したときなので、かなり先のことになるかもしれません。
財産分与による登記の手続き
夫から妻に家を財産分与したときの登記は夫と妻が共同で申請しなければなりません。
- 登記原因証明情報(家の贈与があったことを証明する書類)
- 家の権利証
- 夫の印鑑証明書
- 妻の住民票
- 固定資産評価証明書など不動産の評価額がわかるもの
まとめ
ここで見てきたように、家の名義を夫から妻に変更する原因は、主に相続、贈与、財産分与があります。
それぞれで手続きや税金が異なり、検討するポイントも異なります。
夫から妻への名義変更登記は、司法書士の経験30年の司法書士事務所神戸リーガルパートナーズまでご相談ください。必要に応じて、税理士事務所とも連携して税金面の検討も併せて行えます。