高齢化により寿命が延びた昨今、老後の財産管理に不安を抱えている方は多いのではないでしょうか?
老後の財産管理を適切に行うための方法として、家族信託と成年後見があります。
ここでは、家族信託と成年後見の違いについて説明しますので、老後対策や認知症対策の参考にしていただければ幸いです。
目次
家族信託も成年後見も老後の財産管理を支援する制度
老後の財産管理には認知症リスクがある
現代の日本は、超高齢化社会に突入しています。平成29年10月1日現在、日本の総人口は1億2,671万人。このうち、65歳以上の高齢者人口は3,515万人で、総人口に占める割合(高齢化率)は27.7%となっています。
このような状況下で、危惧されるのが高齢になって認知症になるリスクです。認知症になると判断能力が低下し、自分で財産管理をすることが困難になります。
たとえば、認知症になって意思能力がなくなると、不動産などの財産を自分で売却等する契約を結ぶことができません。財産が凍結された状態になり、誰も処分できなくなってしまう可能性があります。
家族信託や成年後見で認知症対策ができる
認知症リスクに備え、老後に適切な財産管理を行うために利用できる制度として、成年後見と家族信託があります。
成年後見は2000年にスタートした制度で、判断能力が十分でない人に援助者を付けて支援することを目的としています。一方、家族信託は、2007年の信託法改正により可能になった財産管理の手法で、認知症対策のほか、相続対策などに幅広く利用されています。
成年後見と家族信託には、それぞれメリット、デメリットがあります。どちらを利用するかを考えるにあたって、両者の特色を把握しておきましょう。
成年後見は裁判所の監督により厳格に運用されている
成年後見には2種類ある
成年後見制度には、「任意後見」と「法定後見」の2種類があります。それぞれの大まかな違いは、次のとおりです。
概 要 | 後見人になる人 | 後見が開始するとき | |
任意後見 | 本人が認知症などになる前に、自ら後見人になってもらう人を選んで契約(任意後見契約)を結んでおく方法 | 本人が自分で選ぶことが可能 | 本人が認知症になった後、家庭裁判所で後見監督人が選任されたとき |
法定後見 | 本人が認知症などになった後、本人や親族が裁判所に申し立てて、後見人を選任してもらう方法 | 申立時に候補者を指定できるが、必ず候補者が選任されるとは限らず、裁判所が指定する弁護士等が選任される場合もある | 家庭裁判所で後見人が選任されたとき |
成年後見人の職務内容
成年後見人の職務内容は、本人の財産管理と身上監護になります。それぞれ、以下のような内容となっています。
概 要 | 具体例 | |
財産管理 | 本人の財産の維持・管理 | 収入・支出の管理、費用の支払い、不動産・有価証券等の管理、税務申告・納税、不動産の売買・賃貸借契約など |
身上監護 | 生活・療養看護に関する事務 | 介護契約、施設入所契約、医療契約等の代理など |
成年後見人は裁判所の監督を受ける
成年後見人は、後見開始時に本人の財産を調査し、財産目録を作成して家庭裁判所に提出しなければなりません。また、1年に1回、家庭裁判所に後見事務報告書、財産目録、収支状況報告書を提出する必要があります。
なお、成年後見人が本人の居住用不動産を処分する場合や、本人の財産から報酬を受け取る場合には、家庭裁判所の許可を受けなければならないという制限もあります。
成年後見人の職務には制限が多い
成年後見人の職務内容や権限は法律で定められており、権限外の行為はできません。成年後見人ができるのは、本人の財産の維持管理を目的とした行為に限られます。成年後見人にも財産の処分権限はありますが、成年後見人ができる財産処分は、本人にとって必要性やメリットがあるもので、合理的な範囲内のものに限られます。
たとえば、認知症の親がアパートを所有している場合、相続税対策として、建て替え、大規模修繕、買い替えなどを行いたいこともあるでしょう。しかし、成年後見人はこうした相続税対策を行うことはできません。相続税対策は家族にとってメリットがあるもので、本人の財産の保護を目的としたものとは言えないからです。
家族信託なら柔軟な財産管理が実現できる
家族信託の概要
家族信託は、家族や親戚等の身近な親族に、財産管理を任せる方法です。家族信託では、次の3者が当事者になります。
委託者 | 財産の元々の所有者で、財産管理を託する人 |
受託者 | 委託者から託された財産の管理・運用・処分を行う人 |
受益者 | 委託者から受託者に託された財産から経済的利益を得る人
財産の実質的な所有者(委託者と同一人物でも可) |
家族信託の始め方
家族信託は、一般には、委託者と受託者が信託契約を結ぶことによって設定します。受託者は、誰になってもらってもかまいません。大切な財産を管理してもらうからこそ、信頼できる家族を選ぶということが可能です。
信託契約では、信託の開始時期、信託財産の範囲、受託者の権限、受益権の内容、信託終了時の残余財産の帰属先などについて、細かく定めることができます。信託契約は自由度が高く、成年後見制度のような制限はありません。
なお、当事者が認知症になった後で信託契約を結ぶことができないのは、任意後見と同様です。家族信託を始めたい場合には、認知症になる前に信託契約を結んでおく必要があります。
家族信託でできること
家族信託では、当事者同士の契約によって、自由に内容を定めることができます。成年後見人にはできないような財産の積極的な運用も、家族信託の受託者には任せることができます。
たとえば、家族信託では、受託者に相続税対策も任せられます。家族信託なら、本人が認知症になった後、本人所有の土地にアパートを建設するということもできます。また、本人が元気な間は自分でアパートを管理し、判断能力が衰えてきたら家族に管理を引き継ぐといった方法も可能です。
家族信託と成年後見の併用で万全な対策を
家族信託で成年後見のデメリットを補完できる
成年後見制度は、認知症などの人の財産を保護するために設けられた制度です。しかし、成年後見人は本人の財産に関することなら何でもできるわけではありません。成年後見制度には制限が多く、利用しにくいところがあります。
家族信託は、当事者間の契約で自由に内容を定めることができます。家族信託を利用すれば、成年後見ではできないような財産の処分や運用もできるため、柔軟な財産管理が実現します。こうしたことから、家族信託は成年後見のデメリットを補うものとして注目を集めています。
家族信託と成年後見は、どちらが優れているというものではありません。最近、成年後見では家族が財産を使えないからという理由で、家族信託を勧める論調もあります。しかし、家族信託と成年後見は、どちらも本人の財産や老後の生活を守るためのもので、家族の利益を第一とするものではないことを認識しておきましょう。
家族信託と成年後見を併用して対策を
家族信託と成年後見は、両方併せて利用することができます。家族信託と成年後見を併用することで、老後の財産管理や資産承継を万全にすることが可能になります。
家族信託は柔軟性があるため、一見何でもできそうに思うかもしれません。しかし、家族信託でもできないことはあります。たとえば、家族信託の受託者に身上監護(施設の入所手続きや入院手続きなど)を任せることはできません。身上監護を任せるには、成年後見人を付けなければならないことがあります。
家族信託だけで、老後の不安を解消できるわけではありません。家族信託と成年後見は、必要に応じて使い分けるようにしましょう。
まとめ
家族信託を利用すれば、成年後見人ができないような資産運用を信頼できる家族に任せることが可能です。
しかし、家族信託では身上監護を任せられないので、成年後見人を選任してもらった方がよい場合があります。
成年後見と家族信託それぞれの特色を理解し、必要に応じて使い分けたり、両者を併用したりすることを検討しましょう。